また大企業による長時間残業とパワハラが発覚しました。
11月6日に、各社で一斉に報じられています。
以下の記事は、朝日新聞デジタルからの抜粋です。
日立製作所の20代の男性社員が出向先の子会社で精神疾患を発症したのは、月100時間を超す時間外労働とパワーハラスメント(パワハラ)が原因だとして、高岡労働基準監督署(富山県高岡市)が労災認定した。個人加入の労働組合「労災ユニオン」と男性が6日、記者会見して明らかにした。認定は1月16日付。男性の体調の改善を待って会見を開いたという。
出典:朝日新聞デジタル(2018年11月6日)
記事全文は、以下のリンクから読むことができますが、私は各社の記事を読んで、強い憤りを感じました。
私自身、パワハラが原因でうつ病を発症し、休職した経験があります。
また、人事部門の担当者として、労働問題には深く携わってきました。
このような経験に照らしてみても、今回の事件は、大企業の隠蔽体質を露呈する象徴的な出来事だと感じています。
長時間残業に対する世間の目は、日増しに厳しくなっています。
近年では、労基署も違法な長時間労働の摘発に積極的です。
企業にとって、長時間労働の防止は、コンプライアンスと風評の面で重要な課題になっています。
人事部門も、経営層に「いい数字」を見せるために必死です。
長時間残業が常態化している職場には、厳しい指導を行います。
人事部門の管理職が、現場の管理職にパワハラまがいの指導をすることがあっても、なんら不思議ではありません。
「人事部に怒られるから」というセリフには、そのような背景が滲み出ているように思えてなりません。
今回の事件で気になるのは、被害者の支援団体が「労災ユニオン」という外部の労働組合であった点です。
被害者は日立の従業員ですから、当然、会社の労働組合に加盟していたはずです。
本来であれば、こういった労働問題は、会社の労働組合が主体的に改善を図るものです。
しかし、被害者が頼りにしたのは、外部の労働組合でした。
もしかしたら、日立労組に労災を訴えても、まともに相手にされなかったのかもしれません。
ところで、「労災ユニオン」の関与については、各社で報道の仕方に温度差がありました。
朝日新聞・・・「労災ユニオン」と報じる。
日立子会社でパワハラ労災 残業161時間、いす蹴られ:朝日新聞デジタル
日経新聞・・・「支援団体」と報じる。
産経新聞・・・支援団体の存在について報じない。
「辞めちまえ」 日立20代男性の精神疾患を労災認定 - 産経ニュース
Google検索で上位に引っかかった3社の記事を読んでみると、「労災ユニオン」というキーワードが出てくるのは朝日新聞だけです。
日立労組の組合員が外部の労組に駆け込んだとなれば、面子丸つぶれですから、いわゆる「忖度」があったのかなと勘ぐってしまいます。
精神疾患で労災を訴えることは、被害者に大きな負担を与えます。
まず、金銭面ですが、労災を訴えるとなると、健康保険組合から傷病手当金が受給できなくなります。
傷病手当金の額は、法定の基準では標準報酬月額の三分の二ですが、大企業の健保組合であれば、法定の金額に上乗せされるところも多いので、労災と同等(月収の8割)の金額を受給できます。
労災で訴えなければ、すぐに厚遇を受けられるため、この時点で懐柔されてしまうケースが多いのではないかと思っています。
また、金銭面の課題はクリアできたとしても、その先には茨の道が待ち構えています。
誰が、労働者の味方になってくれるのでしょうか?
人事部門?
労働組合?
産業医?
今回の日立の一件では、誰も事態を改善しようとしなかったようです。
労働者のために働くべき機関が、ことごとく会社の方ばかりを見て仕事をしていたということでしょうか。
これを隠蔽体質と言わずして、何と言えばいいのでしょうか?
私も、パワハラでうつ病になり休職していた時期は、どうにかして上司の不正を裁いてもらおうと考えましたが、大企業に対して個人は無力であると痛感しました。
パワハラ労災を訴える手段が、外部の労働組合に頼ることくらいしかないという大企業の隠蔽体質を憂いつつ、労災認定まで勝ち取った当事者の勇気と行動力に敬意を表明したいと思います。
以上